中学・高校生のための よのなかマーケティング・キャリア教育 授業テーマ集

中学・高校の「現代社会」「公共」「総合的な学習の時間」で、これから求められる「思考力・判断力・表現力」を養うための探求型授業で使える授業テーマ集です。 Copyright Masanori yano

特別授業その3 <教材付>「(読解力・表現力)メルケル首相の演説を読んで『伝える・伝わる』を考えてみよう」

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<a href="https://www.photo-ac.com/profile/927624">胡麻油</a>さんによる<a href="https://www.photo-ac.com/">写真AC</a>からの写真

皆さん、こんにちは。

 

本日2020年3月24日時点ですが、

まだまだ新型コロナウイルスは収束していません。

日本では3月23日から再開された学校もありますが、アメリカやヨーロッパでは、厳しい状況が続いています。欧米の各国では、ほぼすべての国で外出禁止。生活必需品の買い物など必要最低限の外出のみが認められている状況で、主要な街に人はほぼいない状態となっています。

 

それに引き換え、日本ではどうでしょうか?

 

皆さんを含めここまでの自粛もあって、感染者が抑えられているとはいえ、この3連休も公園や行楽地は、多くの人でにぎわっていたようです。(大阪と兵庫の間の移動自粛要請はありましたが・・・)

 

桜の開花や春の陽気に誘われた?

あるいは、長期間家で過ごして「コロナ疲れ」のようなストレスからでしょうか?

 

「密閉性の高く換気の悪い空間」

「手の届く距離に多くの人がいる」

「近距離での会話や発声がある」

という感染しやすい条件が重なる場所ではなく、「屋外だから・・・」ということなのでしょうか?

 

世界と日本には人の意識に温度差が出てきているようです。

何事もなければよいのですが・・・。

まだまだ予断許さない状況です。継続して注意をしてくださいね。

決して永遠と続く終わらないことではないのですから。

 

さて、今回も特別授業として、皆さんと考えてみたいことがあります。

それは、「伝えるチカラ」「伝わるチカラ」ということです。

 教科で言うと、国語です。

 

2020年3月18日にドイツのメルケル首相がTV-Anspracheというテレビから国民へメッセージを送りました。その録画後、YouTubeで配信されました。見た人いるかな?

 

その内容は、誰にでも分かりやすく簡潔で、また非常に危機感を伝えるとともに、何をすべきなのかを具体的に話されていたようです。そのことで国民の理解と共感が進み、現在の状況を耐える意識と行動につながっていると聞いています。

 

まさに「受け手にきちんと伝わる伝え方」だったと言えます。

 

youtu.be

 

どんな話だったのでしょう?

私はドイツ語を理解することができません。

でも、SNSなどで流れてきた日本語訳を読んでみたら、

これはとても感銘する演説だ!

皆さんと共有しながら、「伝えること」や「伝わるってどういうことか」を考えたい!

と勝手に思いまして・・・

 

今回、この演説とほぼ同時に翻訳をされ、ブログに掲載された方へ、私のこのブログへ掲載をして良いですか?というメールさせていただき、快くご承諾をいただきました!

ありがとうございます!

そこで、その内容を皆さんと読んで考えたいと思います。

 

その方は、現在ドイツにご在住の 林フーゼル美佳子 さんという方です。

林さんは、ドイツ⇔日本語の翻訳、ドイツ語の作文の添削、文書やニュースの解説をされているようです。

林さん自身の翻訳というお仕事にも興味ありますね。興味があれば、林さんのホームページも見てみてください。

 

www.mikako-deutschservice.com

 

さて、林さんが翻訳されブログ掲載されたメルケル首相の演説全文は以下のものです。

(※以下、林さまブログよりそのまま引用していますが、読みやすいよう改行のみ私の方で加工しています。林さまへ・・・不都合等ございましたらお知らせください。)

 

www.mikako-deutschservice.com

【試訳】

親愛なる国民の皆様*、

コロナウイルスは現在わが国の生活を劇的に変化させています。私たちが考える日常や公的生活、社会的な付き合い ― こうしたものすべてがかつてないほど試されています。

 

何百万人という方々が出勤できず、子どもたちは学校あるいはまた保育所に行けず、劇場や映画館やお店は閉まっています。そして何よりも困難なことはおそらく、いつもなら当たり前の触れ合いがなくなっているということでしょう。もちろんこのような状況で私たちはみな、これからどうなるのか疑問や心配事でいっぱいです。

 

私は今日このような通常とは違った方法で皆様に話しかけています。それは、この状況で連邦首相としての私を、そして連邦政府の同僚たちを何が導いているのかを皆様にお伝えしたいからです。

 

開かれた民主主義に必要なことは、私たちが政治的決断を透明にし、説明すること、私たちの行動の根拠をできる限り示して、それを伝達することで、理解を得られるようにすることです。

 

もし、市民の皆さんがこの課題を自分の課題として理解すれば、私たちはこれを乗り越えられると固く信じています。このため次のことを言わせてください。

 

事態は深刻です。あなたも真剣に考えてください。東西ドイツ統一以来、いいえ、第二次世界大戦以来、これほど市民による一致団結した行動が重要になるような課題がわが国に降りかかってきたことはありませんでした。

 

私はここで、現在のエピデミックの状況、連邦政府および各省庁がわが国のすべての人を守り、経済的、社会的、文化的な損害を押さえるための様々な措置を説明したいと思います。しかし、私は、あなたがた一人一人が必要とされている理由と、一人一人がどのような貢献をできるかについてもお伝えしたいと思います。

 

エピデミックについてですが、私がここで言うことはすべて、連邦政府とロバート・コッホ研究所の専門家やその他の学者およびウイルス学者との継続審議から得られた所見です。世界中で懸命に研究が進められていますが、コロナウイルスに対する治療法もワクチンもまだありません。

 

この状況が続く限り、唯一できることは、ウイルスの拡散スピードを緩和し、数か月にわたって引き延ばすことで時間を稼ぐことです。これが私たちのすべての行動の指針です。研究者がクスリとワクチンを開発するための時間です。また、発症した人ができる限りベストな条件で治療を受けられるようにするための時間でもあります。

 

ドイツは素晴らしい医療システムを持っています。もしかしたら世界最高のシステムのひとつかもしれません。そのことが私たちに希望を与えています。しかし、わが国の病院も、コロナ感染の症状がひどい患者が短期間に多数入院してきたとしたら、完全に許容量を超えてしまうことでしょう。

 

これは統計の抽象的な数字だけの話ではありません。お父さんであり、おじいさんであり、お母さんであり、おばあさんであり、パートナーであり、要するに生きた人たちの話です。そして私たちは、どの命もどの人も重要とする共同体です。

 

私は、この機会にまず、医師としてまたは介護サービスやその他の機能でわが国の病院を始めとする医療施設で働いている方すべてに言葉を贈りたいと思います。あなた方は私たちのためにこの戦いの最前線に立っています。あなた方は最初に病人を、そして、感染の経過が場合によってどれだけ重篤なものかを目の当たりにしています。

 

そして毎日改めて仕事に向かい、人のために尽くしています。あなた方の仕事は偉大です。そのことに私は心から感謝します。

 

さて、重要なのは、ドイツ国内のウイルスの拡散スピードを緩やかにすることです。そして、その際、これが重要ですが、1つのことに賭けなければなりません。

 

それは、公的生活を可能な限り制限することです。もちろん理性と判断力を持ってです。国は引き続き機能し、もちろん供給も引き続き確保されることになるからです。私たちはできる限り多くの経済活動を維持するつもりです。

 

しかし、人を危険にさらす可能性のあるものすべて、個人を、また共同体を脅かす可能性のあるものすべてを今減らす必要があります。人から人への感染リスクを可能な限り抑える必要があります。

 

今でもすでに制限が劇的であることは承知しています。イベント、見本市、コンサートは中止、とりあえず学校も大学も保育所も閉鎖され、遊び場でのお遊びも禁止です。

 

連邦政府と各州が合意した閉鎖措置が、私たちの生活に、そして民主主義的な自己認識にどれだけ厳しく介入するか、私は承知しています。わが連邦共和国ではこうした制限はいまだかつてありませんでした。

 

私は保証します。旅行および移動の自由が苦労して勝ち取った権利であるという私のようなものにとっては、このような制限は絶対的に必要な場合のみ正当化されるものです。そうしたことは民主主義社会において決して軽々しく、一時的であっても決められるべきではありません。しかし、それは今、命を救うために不可欠なのです。

 

このため、国境検査の厳格化と重要な隣国数か国への入国制限令が今週初めから発効しています。

 

経済全体にとって、大企業も中小企業も、商店やレストラン、フリーランサーにとっても同様に、今は非常に困難な状況です。

 

今後何週間かはいっそう困難になるでしょう。私は皆様に約束します。連邦政府は、経済的影響を緩和し、特に雇用を守るために可能なことをすべて行います。

 

わが国の経営者も被雇用者もこの難しい試練を乗り越えられるよう、連邦政府は、必要なものをすべて投入する能力があり、またそれを実行に移す予定です。

 

また、皆様は、食料品供給が常時確保されること、たとえ1日棚が空になったとしても補充されること信じて安心してください。スーパーに行くすべての方にお伝えしたいのですが、備蓄は意味があります。ちなみにそれはいつでも意味のあるものでした。けれども限度をわきまえてください。何かがもう二度と入手できないかのような買い占めは無意味ですし、つまるところ完全に連帯意識に欠けた行動です。

 

ここで、普段あまり感謝されることのない人たちにもお礼を言わせてください。このような状況下で日々スーパーのレジに座っている方、商品棚を補充している方は、現在ある中でも最も困難な仕事のひとつを担っています。同胞のために尽力し、言葉通りの意味でお店の営業を維持してくださりありがとうございます。

 

さて、今日私にとって最も緊急性の高いものについて申し上げます。私たちがウイルスの速すぎる拡散を阻止する効果的な手段を投入しなければ、あらゆる国の施策が無駄になってしまうでしょう。その手段とは私たち自身です。私たちの誰もが同じようにウイルスにかかる可能性があるように、今誰もが皆協力する必要があります。

 

まず第一の協力は、今日何が重要なのかについて真剣に考えることです。パニックに陥らず、しかし、自分にはあまり関係がないなどと一瞬たりとも考えないことです。不要な人など誰もいません。私たち全員の力が必要なのです。

 

私たちがどれだけ脆弱であるか、どれだけ他の人の思いやりのある行動に依存しているか、それをエピデミックは私たちに教えます。また、それはつまり、どれだけ私たちが力を合わせて行動することで自分たち自身を守り、お互いに力づけることができるかということでもあります。

 

一人一人の行動が大切なのです。私たちは、ウイルスの拡散をただ受け入れるしかない運命であるわけではありません。私たちには対抗策があります。つまり、思いやりからお互いに距離を取ることです。

 

ウィルス学者の助言は明確です。握手はもうしない、頻繁によく手を洗う、最低でも1.5メートル人との距離を取る、特にお年寄りは感染の危険性が高いのでほとんど接触しないのがベスト、ということです。

 

こうした要求がどれだけ難しいことか私は承知しています。緊急事態の時こそお互いに近くにいたいと思うものです。私たちは好意を身体的な近さやスキンシップとして理解しています。けれども、残念ながら現在はその逆が正しいのです。これはみんなが本当に理解しなければなりません。今は、距離だけが思いやりの表現なのです。

 

よかれと思ってする訪問や、不必要な旅行、こうしたことすべてが感染を意味することがあるため、現在は本当に控えるべきです。専門家がこう言うのには理由があります。おじいちゃんおばあちゃんと孫は今一緒にいてはいけない、と。

 

不必要な接触を避けることで、病院で日々増え続ける感染者の世話をしているすべての方々を助けることになります。こうして命を救うのです。多くの人にとってこれはきついことでしょう。誰も一人にしないこと、声かけと希望が必要な方たちの世話をすることも重要になってきます。私たちは家族として、また社会として別の相互扶助の形を見つけるでしょう。

 

今でもすでに、ウイルスとその社会的影響に対抗する創造的な形態が出てきています。今でもすでに、おじいちゃんおばあちゃんがさみしくないようにポッドキャストをするお孫さんたちがいます。

 

私たちは皆、好意と友情を示す別の方法を見つけなければなりません。スカイプや電話、イーメール、あるいはまた手紙を書くなど。郵便は配達されるのですから。自分で買い物に行けないお年寄りのための近所の助け合いの素晴らしい例も今話題になっています。まだまだ多くの可能性があると私は確信しています。私たちがお互いに一人にさせないことを社会として示すことになるでしょう。

 

皆様にお願いします。今後有効となる規則を遵守してください。私たちは政府として、何が修正できるか、また、何がまだ必要なのかを常に新たに審議します。

 

状況は刻々と変わりますし、私たちはその中で学習能力を維持し、いつでも考え直し、他の手段で対応できるようにします。そうなればそれもご説明します。このため、皆様にお願いします。噂を信じないでください。公的機関による発表のみを信じてください。発表内容は多くの言語にも翻訳されます。

 

私たちは民主主義社会です。私たちは強制ではなく、知識の共有と協力によって生きています。これは歴史的な課題であり、力を合わせることでしか乗り越えられません。

 

私たちがこの危機を乗り越えられるということには、私はまったく疑いを持っていません。けれども、犠牲者が何人出るのか。どれだけ多くの愛する人たちを亡くすことになるのか。それは大部分私たち自身にかかっています。私たちは今、一致団結して対処できます。現在の制限を受け止め、お互いに協力し合うことができます。

 

この状況は深刻であり、まだ見通しが立っていません。 それはつまり、一人一人がどれだけきちんと規則を守って実行に移すかということにも事態が左右されるということです。

 

たとえ今まで一度もこのようなことを経験したことがなくても、私たちは、思いやりを持って理性的に行動し、それによって命を救うことを示さなければなりません。それは、一人一人例外なく、つまり私たち全員にかかっているのです。

 

皆様、ご自愛ください、そして愛する人たちを守ってください。ありがとうございました。

 

【試訳終了】

 

 

皆さん、いかがですか?

林さんが「試訳」とされているのは、「スピード重視」で訳されたのでということですが、すごく気持ちに届く演説ですよね。

林さんは、ドイツ語の翻訳家ですので、今回の翻訳での文法解説やほかのどのような翻訳が可能かを補足としてブログに掲載されていますので、そちらもあわせて見ていただければと思います。

 

www.mikako-deutschservice.com

 

ちなみに「エピデミック」という言葉が出てきますが、これは流行の規模や状況の度合いを示すもので、「エンデミック」一定の地域内において、感染症などの疾患が恒常的に発生している状況:地域流行)その次が「エピデミック」(一定の地域内で、感染症などの罹患が通常の期待値を超えて急増する状況:流行)そしてその次がパンデミック(エピデミックとなった疾患が、一定の地域を超えた広範囲で同時に流行する状況:世界的大流行)となっています。

 

さて、皆さんクエスチョンです。

 

Q1.メルケル首相の演説を読んで「とても状況が実感できる」と思ったところはどこですか?具体的な文章を選んでみて、なぜ実感できるのかを教えてください。

 

Q2.メルケル首相の演説を読んで、あなた自身は「どうすべき」と思いましたか?

 

Q3. メルケル首相は、この演説を話すときにどんなことを気を付けられたと思いますか?それは、どの文章から感じるとことができますか?具体的な文章を選んであなたの考えを教えてください。

 

Q4.人に物事を伝えるときに気を付けることってどこにあると思いますか?

 

どうですか?

今回も回答は、いろいろあるかと思いますし、いろいろあっていいと思います。

「伝えること」と「伝わること」について考える良い機会になれば、そして皆さん自身んが毎日のコミュニケーションに少しでもそのことが活かすことができればと思います。

 

最後になりましたが、今回、林さまに快く承諾いただきましたこと、心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。ドイツを含め世界の人々が共に連帯し、この危機からいち早く抜け出せることを祈念いたします。

 

では、また。

 

2020年6月15日 このテーマの教材シート作成しました。

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ご必要であれば、以下よりご連絡ください。

 

masashiki2018.hatenablog.com